効率的で効果的な暖房方法は寒冷地では家を建てる際に特に重視されることがらです。今回ご紹介するキタウラ設計室が手掛けたこちらの住宅では、片流れ屋根がもたらす空気循環の特性を生かす暖房方法として「床下暖房パッシブ換気システム」が採用されました。このシステムを採用することによって寒冷地の内外温度差による浮力を利用し、ファン動力に頼らない換気が可能となります。電気に頼らず自然エネルギーを利用するエコな暖房方法で北国の厳しい冬を乗り切ることのできるこちらの家。片流れ屋根が機能面でもデザイン面でもキーアイテムとなっています。では詳しく見て行きましょう
西側の公園へ向かって流れる片流れ屋根が印象的な外観。道路に面したこちらの立面には開口がなく、ミニマルですっきりとした表情を見せています。クライアントがこの土地を購入する決め手となったのが公園に隣接しているという立地条件。このプロジェクトではそれを最大限に生かした空間構成が提案されています。
こちらが公園側から見た外観です。LDK部分が高く持ち上げられているのがよくわかります。札幌市に立地するこちらの住まいでは、雪対策としてもとても有効的なデザインです。夕刻には大きな窓から暖かな光が溢れ出します。
地面から高く持ち上げられた一階のLDK部分。庭、さらに敷地境界の低く設定された塀を越えて隣の公園へと視界が広がるように設計されています。また、積雪の多い季節には庭、塀、公園が雪で埋まって一続きの平面となり、まるで広大な雪原を眼前にしたかのような幻想的な景色が広がります。全面に大きな開口があることで、外部空間とのつながりが強くなり、この部屋を室内にあるテラスのような明るく開放感ある空間にしています。またこのような横に長い空間では、各空間の間に仕切りがないオープンなLDKであっても、自然とゆるやかなスペース分けができていますね。
LDK部分を違う角度から見てみましょう。このスペースの上部は開放感ある吹き抜けとなっています。屋根の勾配に沿って寝室のある2階部分へ上がる階段があり、その先は吹き抜け部分に沿って長い廊下となっています。ここからも、LDK部分はもちろんのことその先にある、庭、公園まで俯瞰することができ、ここでも空間のつながりを感じることができます。また、一階の窓下床には暖房のためのスリットが見て取れます。床下で暖められた空気がスリットから流入し、斜め天井に沿って上りながら徐々に熱を失い、2階床の根太間を水流のように移動して1階に流れ落ち、床下の冷たい外気と混ざる、という循環で暖房システムが機能しています。
こちらが2階廊下とそれに面する和室の様子です。自然素材がふんだんに使用され、また1階からの柔らかな光に包み込まれてあたたかみのある空間となっています。和室の障子を閉めることで、空間の表情をガラッと変えることもできますね。クライアントの「屋根裏部屋への憧れ」-これもこの片流れ屋根のデザインに行きつく一つのヒントとなったそうですが、勾配によって次第に低くなる天井の高さがこの落ち着いた雰囲気を生み出すのに一役買っているといえるでしょう。また、吹き抜けに面した手すりの部分は収納も兼ねており、この部分だけでもかなりの収納量が確保されているのもクライアントには嬉しい工夫ですね。